公務員の年金である「共済年金」が厚生年金保険に統合され、独自の「職域加算」の仕組みも廃止となったことにより、将来の年金に不安を感じている公務員の方も多いのではないでしょうか。
そのような状況のなか、2017年1月には公務員もiDeCo(イデコ)に加入できるようになりました。本記事を読むことで、公務員がiDeCoに加入するべき理由を理解できます。
自分名義の退職金(老後資金)を準備したい公務員にとっては有益な内容となりますので、ぜひ最後までお読みください。
公開日:2022年7月9日
更新日:2022年12月16日
公務員の方がiDeCoに加入した方がよい理由は、大きく分けて以下の5つです。
「公務員の方は年金制度がしっかりしているので安心」という意見もあります。ですが、iDeCoに加入することも、老後のための資産形成の有効な手段となります。
公務員特有の理由もありますので、しっかりと理解しておきましょう。
1つ目の理由は、共済年金(職域加算)廃止に伴う支給水準の低下に対応できることです。公務員の年金制度は、2015年に大幅改定されました。具体的には「共済年金」と呼ばれる公務員独自の年金システムから、会社員の年金システムである「厚生年金保険」に統合されたことが挙げられます。
これは、官民格差の是正を目的とされたもので、この改革により、共済年金独自の年金上乗せ部分であった「職域加算」が廃止されました。代わりに「年金払い退職給付」という仕組みが取り入れられたのですが、全体としてみると、公務員の年金額は、減少傾向です。
この減少分を補う資産形成方法として、iDeCoは有効な手段になります。
2つ目の理由は、所得税と住民税の負担を軽減できる点です。例えば30歳の公務員を例に挙げます。この公務員の方が、毎月1万2,000円の掛金を積立した場合、1年で144,000円が所得から控除されます。
この結果、実際の税額負担がどれぐらい軽減されるかは、年収により異なります。年収300万円のケースと600万円のケースで、それぞれの軽減額を確認しましょう。
例1:年収300万円の場合 所得税・住民税負担軽減額は、所得税率5%、住民税率10%(住民税率は一律10%)の15%が適用
→税負担軽減額は年間2万1,600円(14万4,000円×15%)。1年間で2万1,600円となると、30年間(60歳まで)で64万8,000円の所得税・住民税が軽減される計算
例2:年収600万円の場合 所得税・住民税負担軽減額は、所得税率10%、住民税率10%(住民税率は一律10%)の20%が適用
→税負担軽減額は年間2万8,800円(14万4,000円×20%)。1年間で2万8,800円となると、30年間(60歳まで)で86万4,000円の所得税・住民税が軽減される計算
注)実際の所得税率は年収以外の要素でも変動するため、ここでの年収と所得税率はあくまで目安とする
3つ目の理由は、退職金・年金受取り時に控除を受けられる点です。一時金、年金のどちらの受取方をしても、税制優遇が得られます。
まず、税制上の仕組みとしては、下記の通りです。
最初に退職金で受け取るケースを考えます。勤続年数ごとの退職所得控除額は下記の通りです。
項目 | 計算式 |
---|---|
勤務年数:20年以下 | 40万円×勤続年数 |
勤務年数:20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
(例)退職所得控除の継続年数:30年 退職所得控除:800万円+70万円×(30年-20年)=1,500万円 課税所得:(1,500万円-1,500万円)×1/2=0万円 →退職金と一時金の合計が1500万円以下であれば、課税所得が0円になるため、実質税負担不要となります。
一方で、年金として受け取る場合の公的年金等控除は、65歳未満の方は年間60万円以下、65歳以上の方は年間110万円以下が非課税となります。
注)公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額が1,000万円超になると非課税額が下がります。
4つ目の理由は、運用益が非課税となる点です。金融商品を運用すると、源泉分離課税の場合20.315%課税されますが、iDeCoであれば非課税で再投資されます。例えば、毎月1万2,000円の掛金を年利3%で33年間積み立てた場合、下記の通り非課税効果は680,548円となります。
項目 | 金額 |
---|---|
積立元金 | 4,752,000円 |
合計金額 | 8,101,976円 |
運用益(合計金額―積立元金) | 3,349,976円 |
運用時の非課税分=33年間の非課税効果 (運用益 * 20.315%) |
680,548円 |
「塵も積もれば山となる」ということわざがあるように、非課税効果も長期間の運用で考慮すると、かなり大きな金額になることが分かります。
現状、公務員(公務員等共済加入者)の掛金拠出限度額は月額12,000円(年間144,000円)ですが、2024年12月からは月額2万円(年間24万円)に引き上げられる予定です(2022年10月現在)。「掛金拠出限度額が少なくて、資産形成の原資としては心許なかった」という方にとっては嬉しい情報ではないでしょうか。
ただし、年収によっては掛金拠出限度額が2万円を下回ることがあるため注意してください。具体的には、公務員のiDeCoの限度額は下記のように計算します。
月額5.5万円-(各月の企業型DCの事業主掛金額+DB等の他制度掛金相当額)
iDeCoの拠出限度額の上限は2万円までとなります。
公務員は企業型DCがなく、DB等の掛金でiDeCoの拠出限度額が決まります。公務員のDBとは「年金払い退職給付」のことです。つまり、iDeCoの拠出限度額が月額2万円以下になる条件は、「年金払い退職給付」が3.5万円を超える場合になります。
年金払い退職給付が3.5万円を超えるのは、年収が2,800万円以上の場合です。従って、年収2,800万円以上の公務員の方は、iDeCoの拠出限度額が2万円以下となるので注意が必要です。
公務員がiDeCoに加入する際のよくある質問とその回答をまとめます。これからiDeCoを始めることを検討している公務員の方はぜひ参考にしてください。
公務員の方の場合、職場にて金融機関を勧められる場合があります。ですが、必ずしも勧められた金融機関で始める必要は無く、好きな金融機関でiDeCoを始めることができます。
金融機関の選定時に見るべきポイントは、以下の3点です。
公務員もiDeCoを始める場合、職場への報告が必要です。なぜなら、公務員の方は口座開設の申込時に、勤務先に資格の有無の確認するための書類(事業主の証明書)に記入してもらう必要があるからです。
職場へiDeCoを実施する旨を伝え、記載してもらうよう依頼しましょう。なお、事業主の証明書ですが、記載項目がたくさんありますので、早めに事業主に伝えるようにしましょう。また、拠出金を給与から天引きしたい場合、勤務先に忘れず連絡しておくことをおすすめします。
専門家に相談することをおすすめします。iDeCoは一人一口座のみの所有となるので、口座選びは非常に重要です。それぞれの特徴をよく理解したうえで、加入手続をしましょう。
なお、ソニー生命も口座開設を取り扱っております。まずは口座の手数料や取扱商品、および口座開設の手続に関して、相談してみることをおすすめします。
公務員でも、確定申告が必要になるケースはあります。例えば、下記のような場合は公務員でも確定申告が必要です。
10月から12月にiDeCoを始めた場合、掛金の払込証明書は翌年に発行されます。したがって年末調整には間に合わないこととなり、確定申告で所得控除を受ける形となります。
参照:国民年金基金連合会「iDeCo加入者掛金に係る令和3年分の 小規模企業共済等掛金払込証明書(控除証明書)の発行時期と対象となる方」|国民年金基金連合会
公務員から転職した場合、転職先の企業に企業型確定拠出年金があるかないかで対応方法が変わってきます。
この場合は、iDeCoを勤務先の確定拠出年金に移すことができます。移した場合、iDeCoの「加入資格喪失届」という書類を運営管理機関(現在iDeCoを契約している金融機関)に提出する必要があります。
また、企業型確定拠出年金に移さず、そのままiDeCoを継続することも可能です。その場合も事業所登録など所定の手続が必要になりますので、運営管理機関に問い合わせてください。
転職先に確定拠出年金がない場合は、iDeCoをそのまま継続します。勤務先が変更になるので、「事業所登録申請書兼第二号加入者に係る事業主の証明書」というものを転職先に記入してもらい、運営管理機関に提出する必要があります。
実際にiDeCoを活用した場合、どのくらいの運用益があるのかを計算してみます。現在の上限金額の場合と、2024年以降の掛金の上限が上がった場合の2パターンを例に税制メリットを説明します。
項目 | 条件 | 金額 |
---|---|---|
条件① (~2024年11月30日) |
年齢:30歳 運用期間:30歳から60歳まで 毎月の掛金:1.2万円 想定リターン:年率5% |
積立元金 4,320,000円 合計金額 9,987,104円 運用益 5,667,104円 |
条件② (2024年12月1日~) |
年齢:30歳 運用期間:30歳から60歳まで 毎月の掛金:2万円 想定リターン:年率5% |
積立元金 7,200,000円 合計金額 16,645,173円 運用益 9,445,173円 |
iDeCoを活用することで、運用益が非課税となります。さらに、掛金が全額所得控除になるため、毎年の所得税と住民税も軽減されます。
このように、iDeCoに加入すると税制面のメリットを受けられます。長期間の資産形成を行ううえで、運用益に対して税金がかからないことは大きなポイントです。まだ利用していない場合はぜひ活用を検討しましょう。
※シミュレーションの値はあくまで参考値であり、実際の運用益を保証するものではございません。
→「iDeCoのメリット・デメリット」について詳しく見る
2017年1月、自助努力による資産形成を促す観点から公務員の方もiDeCoに加入できるようになりました。公務員の年金支給額の不足を補ううえで、iDeCoは有力な資産形成の手段です。
2024年12月からは掛金が月額2万円(年間24万円)に引き上げられる予定となっており、ますます利便性が高まります。
共済年金(職域加算)廃止で年金額が減少した公務員の方は、所得税・住民税の控除や受取時の税制優遇も期待できるiDeCoを上手に活用してはいかがでしょうか。
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