※当記事は、ソニー生命から山口2級ファイナンシャル・プランニング技能士へ執筆を依頼し、原稿をソニー生命にて編集したものです。
「自分の財産を家族に渡すときに、できるだけ税金の負担を抑えたい」と考えている人もいるのではないでしょうか。
「生前贈与」は、税金の負担を抑えつつ資産を移転する方法の一つです。
生前贈与は、自分が生きている間に配偶者や子どもなどに財産を贈る方法で、適切に活用することで税負担を軽減できる可能性があります。
この記事では、生前贈与の基本や税金を税負担の軽減を図る方法を7つ解説します。
生前贈与とは?特徴を解説!
まずは生前贈与の概要や、相続との違いについて解説します。
生前贈与とは、生存中に配偶者や子どもなどに財産を移譲することです。なお生前贈与は、被相続人の存命中に行うもので、被相続人の死後に行う相続とはさまざまな点で異なります。
生前贈与を行う目的の一つとして挙げられるのが、故人の財産を受け継ぐ際に発生する「相続税」の負担軽減です。
生前贈与により、相続税発生前に財産を移譲することが可能となり、相続が発生した際に課税される財産の総額が減少します。これにより、相続税の負担を軽減する効果が期待できるのです。
生前贈与と相続の違いは?
生前贈与で財産を移譲する場合と、相続で財産を移譲する場合の違いは、以下のとおりです。
生前贈与 | 相続 | |
移譲するタイミング | 被相続人の存命中 | 被相続人の死後 |
納税手続の対象者 | 受贈者 | 相続人または受遺者 |
課税対象者 | 受贈者 | 相続人または受遺者 |
税金の申告・納税期限 | 贈与の翌年の2月1日~3月15日 | 被相続人の死後10カ月以内 |
課される税金 | 贈与税 | 相続税 |
生前に財産を移譲するか、死亡したタイミングで財産を移譲するかが大きな違いと言えるでしょう。
なお、生前贈与は贈与契約の一種なので贈与者(贈与をする人)と受贈者(贈与を受ける人)の意思表示が必要です。
生前贈与を行う際の注意点!
生前贈与を行う際の注意点として挙げられるのが、以下の4つです。
- 生前贈与は受け取り時に課税される
- 固定金額の贈与は控える
- 手続費用がかかる場合がある
- 相続時点から7年以内の生前贈与は無効になる
財産を適切に移譲するため、内容をしっかり把握しておきましょう。ここからは、それぞれの注意点について詳しく解説します。
生前贈与は受け取り時に課税される
贈与税の申告と納税の期間は、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までです。※1
申告を行うのは受贈者で、期日までに申告しないと税務署から指摘・追及を受ける可能性があるため注意しましょう。
※1 参照:国税庁「No.4402 贈与税がかかる場合」
毎年同額の贈与は控える
贈与税は、贈与する金額が大きいほど税率が高くなります。例えば両親や祖父母から18歳以上の子ども、もしくは孫へ贈与する「直系尊属からの贈与」では、以下の税率が適用される仕組みです。※2
基礎控除後の価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | 0円 |
200万円超400万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円超600万円以下 | 20% | 30万円 |
600万円超1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,000万円超1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
1,500万円超3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
3,000万円超4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
一度に大きな金額を贈与すると、受贈者の税負担が重くなる恐れがあります。
贈与税には毎年110万円の基礎控除があるため、数年に分けて少額ずつ贈与すれば、税負担を軽減することが可能です。
ただし、毎年のように同日に同じ金額を贈与している場合、本当は一括での贈与予定だったのではとみなされ、一連の贈与の合計額に対して贈与税が課税される可能性があります。
※2 参照:国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」
手続費用がかかる場合がある
生前贈与を行う資産によっては、手続きに費用が発生します。
例えば、贈与する資産が不動産であれば不動産取得税や登録免許税などの税金を負担しなければなりません。また、税金の専門家である税理士や登記の専門家である司法書士へ相談したときは、相談料が発生することもあるでしょう。
相続時点から7年以内の生前贈与は無効になる
贈与者の死亡前7年以内の贈与は、原則として生前贈与が無効で、相続税の算定対象です。
なお、2023年12月31日までは「死亡日以前3年間」でしたが、2024年1月1日以降は「死亡日以前7年間」に変更されています。
2023年12月31日までに行った生前贈与に関して適用されるのは、「死亡日以前3年間」の規定です。2024年1月1日以降に行う生前贈与に関しては、死亡日以前7年間に生前贈与した財産は無効として、相続税に持ち戻して計算する取り扱いになります。※3
そのため、健康状態に不安を覚えてから生前贈与を行っても、生前贈与を始めた直後に万一のことが起きてしまい、持ち戻しの対象となり税負担軽減の効果が期待できない可能性があります。生前贈与は、早い段階から計画的に行うことが重要と言えるでしょう。
なお生前贈与をしたときに贈与税を支払っている場合は、二重課税を防ぐため、すでに支払った額を相続税から控除できます。
また、後述する特例が適用される場合は、相続財産に加算されない例外もあります。
※3 参照:国税庁「令和5年度 相続税及び贈与税の税制改正のあらまし」P4
生前贈与が非課税になる7パターンを紹介!
生前贈与が非課税になるパターンは、主に以下の7つがあります。
- 暦年課税の基礎控除
- 相続時精算課税の特別控除額
- 夫婦間の自宅等の贈与(配偶者控除)
- 住宅取得等資金の贈与の非課税枠
- 教育資金の一括贈与の非課税枠
- 結婚・子育て資金の一括贈与の非課税枠
- 特定障害者の贈与の非課税枠
以下、それぞれのパターンについて詳しく見ていきましょう。
①暦年課税の基礎控除
1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額が110万円以下なら贈与税はかかりません※4
贈与税には年間110万円の基礎控除(非課税枠)があるため、基礎控除内に収まっていれば贈与税は発生しません。
※4 参照:国税庁「No.4402 贈与税がかかる場合」
②相続時精算課税の特別控除額
相続時精算課税を活用する場合、贈与額が2,500万円を超えない場合は非課税になります。※5
相続時精算課税制度とは、贈与時には2,500万円までを特別控除として非課税にする一方で、贈与者が死亡し相続が発生したときには、非課税で贈与した財産も相続財産に持ち戻し、相続税が課税される仕組みです。
2024年1月以降は、相続時精算課税制度にも110万円の基礎控除が適用されるため、贈与額が110万円以内であれば持ち戻しの対象とはなりません。なお基礎控除に加えて2500万円を超える贈与を行った場合は、超えた部分に対して20%の贈与税がかかります。
※5 参照:国税庁「No.4103 相続時精算課税の選択」
③夫婦間の自宅等の贈与(配偶者控除)
結婚して20年以上の夫婦が居住用不動産またはその購入資金を贈与した場合、通常の110万円の基礎控除に加えて、最大2,000万円の追加控除が適用されます。※6
ただし、贈与される不動産や購入資金で得た不動産については、贈与の翌年の3月15日までに贈与を受けた人が居住しており、今後も継続して居住する予定である必要があります。
※6 参照:国税庁「No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」
④住宅取得等資金の贈与の非課税枠
2024年1月1日から2026年12月31日の期間中に、直系尊属から受けた贈与金で家を新築したり増築したりする場合、次のように贈与税が非課税となります。※7
-
省エネ住宅:最大1,000万円まで
-
その他の住宅:最大500万円まで
両親や祖父母から住宅資金の援助を受ける予定がある場合は、知っておくとよいでしょう。
※7 参照:国土交通省「住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置」
⑤教育資金の一括贈与の非課税枠
2013年4月1日から2026年3月31日までの期間中、30歳未満の直系尊属の子や孫が教育資金として贈与を受けた場合、最大1,500万円までの贈与税が非課税になります。※8
ただし、この特例を受けるためには、贈与が金融機関との教育資金管理契約に基づいて行われている必要があります。
金融機関と「教育資金口座に係る契約」を締結した上で専用口座を開設し、受贈者が領収書等を提出することで教育資金引き出す必要がある点を押さえておきましょう。
※8 参照:国税庁「No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」
⑥結婚・子育て資金の一括贈与の非課税枠
2015年4月1日から2025年3月31日までの間に、18歳以上50歳未満の直系尊属の子や孫が結婚・子育て資金として贈与を受けた場合、最大1,000万円までの贈与税が非課税となります。※9
この特例を受けるには、贈与が金融機関などと結びついた結婚・子育て資金管理契約に基づくものである必要があります。
※9 参照:国税庁「No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税」
⑦特定障害者の贈与の非課税枠
障害者は生活や就労に制約を抱えていることから、贈与の非課税枠が設けられています。特別障害者である特定障害者は6,000万円まで、特別障害者以外の特定障害者は3,000万円まで贈与税が非課税です。※10
当該非課税制度の適用を受けるためには、信託銀行等に財産を委託する必要があります。
※10 参照:国税庁「障害者と税」
まとめ
生前贈与のメリットは、税負担の軽減が期待できることと、自分が財産を渡したい人へ確実に移譲できる点です。
相続をめぐって家族間で争いが起きた場合、問題が大きくなるだけでなく長期化する可能性もあります。
生前贈与を行うことで、遺産分割の際に家族間での争いが少なくなり、自分や相続人の安心につながるでしょう。
贈与税の負担を軽減するためには、非課税制度を把握することも大切です。さまざまな非課税制度を有効活用すれば、受贈者の負担を軽減できます。
もし生前贈与に関するトラブルが起こりそうな状況や、生前贈与について疑問点がある場合は、ソニー生命のファイナンシャルプランナーにご相談ください。
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ライフプランナーに
生前贈与について相談する
執筆者:山口 貴弘(2級ファイナンシャル・プランニング技能士)
監修者:柴田 充輝(1級ファイナンシャル・プランニング技能士)
当資料は、2024年9月現在の税制・税率に基づき作成しております。また、税制・税率は将来変更されることがあります。なお、個別の取扱いにつきましては、お客さまご自身にて所轄の税務署または税理士にご確認ください。