「ゆとりある老後」とは
※当記事は、ソニー生命から續CFP®資格者へ執筆を依頼し、原稿をソニー生命にて編集したものです。
「ゆとりある老後」とは、日常生活費とは別に、旅行やレジャー、趣味や教養、人付き合いを楽しんだり、耐久消費財の買い換えや子どもや孫への資金援助が必要になったりしたときに無理なく支出ができる経済状況のことです。
生命保険文化センターが実施した2022年度の調査によると、ゆとりある老後を送る場合に、資金を旅行やレジャーに使いたいとの回答が60%にのぼりました。次いで日常生活の拡充、趣味や教養に使いたいとの回答が多い結果となりました。※1
現役時代は急にまとまった支出が必要になっても働いて収入を得たり、貯蓄の取り崩しでリカバリーできますが、老後の場合は経済的なゆとりがないと予定外の支出に対応しにくい傾向があります。
※1 参照:生命保険文化センター「2022年度 生活保障に関する調査」P.113
ゆとりある老後に必要な資金は約3,500万円
生命保険文化センターが実施している「2022年度 生活保障に関する調査」によると、夫婦2人でゆとりある老後を送るために必要となる日常生活費への上乗せ額は平均すると月14.8万円です。※2
老後の年金受給額や老後期間は人によって異なりますが、仮に退職後の老後生活を20年とした場合、ゆとりのある老後のためには約3,500万円程度の資金が必要です。
※2 参照:生命保険文化センター「2022年度 生活保障に関する調査」P.120
総務省による老後の月額支出平均は約24万円
ここからは老後の生活における必要資金について見ていきましょう。まずは老後の支出額です。
総務省の「家計調査(2022年)」によると、65歳以上の無職世帯の平均支出月額は夫婦世帯で約24万円です。単身世帯の場合は約14万円となっています。※3
※3 参照:総務省「家計調査年報(家計収支編)2022年(令和4年)」P.22
ゆとりある老後の生活費の平均は約37.9万円
夫婦世帯の支出額の平均24万円は、基本的な生活におけるものです。前述したように「ゆとりを持った」老後生活をする場合の生活費は、基本的な生活費に加えゆとりのための上乗せが必要になります。ゆとりある老後の生活費は平均で月37.9万円(生命保険文化センター「2022年度 生活保障に関する調査」参照)です。※4
※4 参照:生命保険文化センター「2022年度 生活保障に関する調査」P.124
公的年金の受給金額はどれくらいか
ここで気になるのが老後の収入がどれぐらいあるかということでしょう。そこで、老後の主な収入源となる公的年金の平均受給額について確認してみましょう。
厚生労働省年金局の資料によると、2022年度の老齢厚生年金の平均受給月額は約14.4万円です。この金額には老齢基礎年金も含まれています。なお、この金額は会社員など自分自身で厚生年金に加入していた人の1人あたりの平均額です。※5
そこで総務省の「家計調査(2022年)」を参考にすると、65歳以上の夫婦のみ無職世帯の社会保障給付額は現在1ヵ月あたり約22万円です。※6
また、自営業者などで、加入している公的年金が国民年金のみという場合は老後に受給できる年金は老齢基礎年金だけです。老齢基礎年金で受給できる月額は、40年間加入した場合の満額で1人あたり6万8,000円(2024年度の金額)です。※7
※5 参照:厚生労働省年金局「令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」P.12
※6 参照:総務省「家計調査年報(家計収支編)2022年(令和4年)」P.21
※7 参照:日本年金機構「令和6年4月分からの年金額等について」
公的年金だけで生活を送る場合は支出調整が必要
公的年金だけで生活を送る場合、支出を減らす工夫が必要となります。現在の平均額に合わせて1ヵ月あたりの支出額を24万円、年金収入額を22万円とした場合、2万円ほど差額があります。食費や通信費、交際費など支出を少しずつ削減する必要があり、ゆとりある生活を期待するのは難しそうです。
ゆとりを持てず、過度な節約を強いられる生活となると、旅行や趣味にお金を使えないのはもちろん、例えば外食もできずスーパーの特売品で自炊し食費を抑えたり、冷暖房器具の使用を控えて光熱費を抑えたり、身に着けるもの・家電の買い替えも難しくなるかもしれません。
老後にかかる生活費はどれくらいか
ここで実際に、老後の日々の生活費として何にいくらかかっているのか確認していきましょう。ここでは65歳以上の夫婦のみの無職世帯夫婦の平均月間消費支出を紹介します。※8
食費 | 67,776円 |
---|---|
住居費 | 15,578円 |
光熱・水道代 | 22,611円 |
家具・家事用品 | 10,371円 |
被服および履物 | 5,003円 |
保健医療 | 15,681円 |
交通・通信 | 28,878円 |
教育 | 3円 |
教養娯楽 | 21,365円 |
その他の消費支出 (雑費・交際費など) |
49,430円 |
合計 | 236,696円 |
※8 参照:総務省「家計調査年報(家計収支編)2022年(令和4年)」P.22
生活費以外にかかる費用は何があるか
世帯の状況によっては生活費以外にも支出が必要になる場合もあります。実際に必要となる生活費以外の主な支出を見ていきましょう。
保険料
扶養している家族の生活保障、自分自身のがんなどへの備えとして生命保険やがん保険などへの加入を続ける場合、保険料がかかります。
保険料の額は加入する保険の数や種類(終身型や掛け捨て型など)によって異なりますが、保険料の払込期間中は払込を続ける必要があります。
子どもや孫への支援費
自分に子どもがいる場合、結婚費用や出産費用の援助が必要になる場合があります。また孫がいる場合には、出生時や毎年の誕生日のお祝い、教育費の援助などが必要になることもあります。
教養・娯楽費
先に紹介した生活費の内訳のなかで教養・娯楽費は月21,365円です。※9
このなかには、例えば映画館に行ったり、旅行に行ったり、カルチャースクールに通ったりといった教養・娯楽・趣味などに対する支出の他、そのためのバス代や鉄道運費、航空運賃、旅行用かばん代、つきあい費なども含まれています。※10
これ以上に老後にレジャーを楽しみたい場合には、別途費用が必要です。
※9 参照:総務省「家計調査年報(家計収支編)2022年(令和4年)」P.21
※10 参照:厚生労働省「家計調査 収支項目分類の基本原則/5 教育関係費と教養娯楽関係費」
介護費
配偶者や自分自身に介護が必要になった際には介護費がかかります。公的介護保険によって要介護認定度に応じた介護サービスを受けられますが、原則として、前年度の所得に応じて1割から3割の自己負担が必要です。また、支給限度額も決められているため超過した分は自己負担しなければなりません。
自宅のリフォーム費
一軒家か集合住宅によって違いはありますが、長年住んだ自宅に引き続き居住するときには、例えば水回りや屋根、外壁などの補修が必要です。また、高齢になると自宅をバリアフリー化や手すりをつけるなどのリフォームが必要になる可能性もあり、リフォーム費の捻出が必要になる場合もあります。
入院費・手術費
ケガや病気で入院・手術が必要になると医療費がかかります。自己負担割合は69歳までは3割、70歳~74歳までは原則2割、75歳以上になると原則1割になりますが、70歳以降も現役並みの所得がある場合には所得額によって2~3割の自己負担が必要です。※11
※11 参照:政府広報オンライン「後期高齢者医療制度医療費の窓口負担割合はどれくらい?」
葬儀費
自身の葬儀、仏壇やお墓の購入などにも費用がかかります。子どもや孫の世代へなるべく負担をかけないために、貯蓄や保険などであらかじめ備えておきたい費用です。
葬儀費用について詳しく知りたい方は「葬儀費用の平均費用は約110万円。内訳や費用を抑える方法を解説」をご覧ください。
老後の出費の簡易シミュレーション
ここからはライフスタイルのパターンごとに老後の毎月の収支がどのような状態になるのかシミュレーションしていきます。大まかにでも収支が分かれば、いくら準備すればよいのか把握しやすくなります。仮に90歳まで生活するとした場合に必要な準備資金をみていきましょう。
夫婦の場合
リタイアまで夫婦共働き、自営業、専業主婦の3パターンに分けてシミュレーションします。
夫婦が共働きの場合
【計算上の仮定】
夫:22歳から65歳まで会社員、平均標準報酬月額50万円
妻:22歳から65歳まで会社員、平均標準報酬月額30万円
公的年金 | 加入年数 | 年金額 | ||
---|---|---|---|---|
年額 | 月額 | |||
夫 | 国民年金 | 40年 | 816,000円 | 68,000円 |
厚生年金 | 43年 | 1,414,098円 | 117,841円 | |
妻 | 国民年金 | 40年 | 816,000円 | 68,000円 |
厚生年金 | 43年 | 848,459円 | 70,704円 | |
合計 | 3,894,557円 | 324,545円 |
夫婦で受給できる年金月額は約32.5万円です。基本的な生活費には困りませんが、ゆとりある老後生活費を37.9万円とすると、約5.4万円不足します。夫婦ともに90歳までゆとりある生活をすると想定すると1,620万円の資金準備が必要です。
夫婦が自営業の場合
【計算上の仮定】
夫:20歳から65歳まで自営業
妻:20歳から65歳まで自営業
公的年金 | 加入年数 | 年金額 | ||
---|---|---|---|---|
年額 | 月額 | |||
夫 | 国民年金 | 40年 | 816,000円 | 68,000円 |
妻 | 国民年金 | 40年 | 816,000円 | 68,000円 |
合計 | 1,632,000円 | 136,000円 |
夫婦で受給できる年金月額は約13.6万円です。老後の基本的な生活費を月24万円とすると月々10.4万円不足します。夫婦ともに90歳まで生活すると想定すると、基本的な生活費だけで3,120万円の資金準備が必要です。
夫が働き妻が専業主婦の場合
【計算上の仮定】
夫:22歳から65歳まで会社員、平均標準報酬月額50万円
妻:22歳から28歳まで会社員、その後専業主婦(被扶養者)、平均標準報酬月額20万円
公的年金 | 加入年数 | 年金額 | ||
---|---|---|---|---|
年額 | 月額 | |||
夫 | 国民年金 | 40年 | 816,000円 | 68,000円 |
厚生年金 | 43年 | 1,414,098円 | 117,841円 | |
妻 | 国民年金 | 40年 | 816,000円 | 68,000円 |
厚生年金 | 5年 | 65,772円 | 5,481円 | |
合計 | 3,111,870円 | 259,322円 |
夫婦で受給できる年金月額は約25.9万円です。基本的な生活はできますが、ゆとりある老後生活費には約11.9万円不足します。夫婦ともに90歳までゆとりある生活をすると想定すると3,570万円の資金準備が必要です。
独身の場合
独身者の場合も同様に会社員の場合、自営業の場合でそれぞれシミュレーションしてみます。
独身で会社員の場合
【計算上の仮定】
22歳から65歳まで会社員、平均標準報酬月額60万円
公的年金 | 加入年数 | 年金額 | |
---|---|---|---|
年額 | 月額 | ||
国民年金 | 40年 | 816,000円 | 68,000円 |
厚生年金 | 43年 | 1,696,918円 | 141,409円 |
合計 | 2,512,918円 | 209,409円 |
65歳から受給できる年金月額は約20.9万円です。独身者の老後の基本的な生活費は約14.3万円となっており、約6.6万円のゆとりがあります。しかしながら独身者の場合は大きな病気をしたときや介護が必要になったときのサポートが心配です。保険での備えなど追加の出費を見積もっておくことが必要です。※12
※12 参照:総務省「家計調査年報(家計収支編)2022年(令和4年)」P.21
独身で自営業の場合
【計算上の仮定】
22歳から65歳まで自営業
公的年金 | 加入年数 | 年金額 | |
---|---|---|---|
年額 | 月額 | ||
国民年金 | 40年 | 816,000円 | 68,000円 |
65歳から受給できる年金月額は約6.8万円です。基本的な生活だけでも約7.5万円不足します。90歳までの基本的な生活費として、2,250万円用意する必要があります。会社員の場合同様、病気や介護に対する備えとして保険料などを見積もっておく必要があるでしょう。
老後に必要なお金に関するQ&A
最後に、老後に必要なお金に関してよくある質問をQ&A形式で紹介します。
いつから老後資金を貯めていくべき?
老後資金の準備はできるだけ早いうちから始めるのが理想です。貯める期間が長くなるほど月々の積立額は少なくて済みます。
例えば65歳までの目標額が3,000万円としましょう。運用利回りを考慮しないで単純計算すると、45歳からの準備開始では月々12.5万円の積立てが必要ですが、35歳から始める場合は月々約8.3万円の積立てで済みます。
老後資金の貯め方は?
資金の貯め方として3つの方法を紹介します。
銀行への預金
毎月一定額を銀行口座に預ける方法があります。ただし、生活費など普段の支出で使ってしまわないように、毎月の収入のうち数%を積立定期預金など生活口座とは別の口座に預けるという手段もあります。自動振替を設定しておけば、毎月決まった日に一定額が振替えられます。
貯蓄性のある保険商品
養老保険や個人年金保険など、貯蓄性のある保険を利用する方法もあります。低金利が長く続く状況下では多くのリターンは期待できませんが、保障と貯蓄を兼ね備えており、リスクが比較的小さく老後資金の準備ができます。
ただし、払込期間中に中途解約をする場合、元本割れするリスクがあることには注意が必要です。
株式、投資信託
投資性のある金融商品を利用する方法もあります。元本保証もなく、資産額が変動するリスクはありますが、運用によってはリターンも期待でき、月々の積立負担を軽減できる場合があります。
例えば、前述したように、運用利回りを考慮しなければ35歳から65歳までに3,000万円貯めようとすると約8.3万円の積立てが必要です。一方、仮に年率3%で運用できるとすると、月々の積立額は約5.2万円で済みます。※13
投資性のある金融商品にはいくつか種類があり、それぞれ特徴が異なるため、自分のリスク許容度に合わせて選びましょう。
商品の種類 | 特徴 |
---|---|
株式 |
値上がり益や配当金を期待できる。リスクは比較的高い。 |
投資信託 |
資産運用のプロが投資家のお金をまとめて分散投資する商品。値上がり益や分配金を期待できる。 |
※13 参照:金融庁「資産運用シミュレーション」
老後を見据えた資産形成は専門家に相談する
ゆとりある老後のための資金準備として、金融商品を活用することが一つの解決策といえます。その際に、どの金融商品を選択するべきかは、自身の性格やリスクをどれだけ許容できるかなど、人それぞれです。
老後に向けた資産形成で悩んだ際は、ソニー生命のライフプランナーといった保険・金融の専門家に相談するのがおすすめです。
ライフプランナーに
資産形成について相談する
まとめ
ゆとりある老後の生活費は平均で月37.9万円必要です。公的年金だけでは不足するため自身で老後資金準備をしておくことが大切です。
必要となる準備資金額は受給できる年金額や老後生活期間、世帯状況などによって異なります。
老後資金を準備するには預貯金での積み立てや生命保険、投資性のある商品を利用する方法などがさまざまなものがあります。どの場合でもできるだけ早いうちから準備することがおすすめです。
SL24-7271-0205
上記は、2024年8月現在の社会保険制度に基づき作成しております。
詳細につきましては、所轄の年金事務所等にご確認ください。
執筆者:續 恵美子(CFP®資格者)
監修者:古澤 綾(2級ファイナンシャル・プランニング技能士)