ニュースリリース(平成28年度)
ダブルケアに関する調査2017
注:第7弾ダブルケア実態調査(ソニー生命連携調査)
2017年3月17日
ソニー生命保険株式会社(代表取締役社長 萩本 友男)と横浜国立大学 大学院国際社会科学研究院 相馬 直子准教授、ブリストル大学(英国) 社会・政治・国際学研究科 山下 順子講師は、2016年10月29日~11月6日の9日間、全国の大学生以下の子どもを持つ父親・母親に対し、昨年に続き2回目となる全国規模での「ダブルケアに関する調査」をインターネットリサーチで実施し、2,100名の有効サンプルの集計結果を公開しました。(調査協力会社:ネットエイジア株式会社)
調査結果 概要
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【『ダブルケア』 と仕事の両立】
有職者の1割半が「介護や育児を理由に仕事をやめたことがある」
女性ダブルケア経験者では4割近く、男性でも2割が
「介護や育児を理由に仕事をやめたことがある」と回答
ダブルケアと仕事の両立で苦労した点 「ダブルケアという問題が職場で認知されていない」が3割半
未経験者が苦労すると思う点では「介護サービス利用と仕事の両立がしにくい」がトップに
ダブルケアと仕事の両立の理想像 「子育て・介護・仕事のバランスをよく」が4割
しかし、現実はバランスが上手く取れず、「子育てと仕事が中心」が3割半で最多
ダブルケアと仕事の両立のために職場に必要なこと 「休暇の取りやすさ」「柔軟な出社時間」
-
【『ダブルケア』の金銭的負担】
ダブルケアに関する毎月の負担額 平均負担額は81,848円
親の医療・介護関連の費用 全て「親の年金や預貯金」から出している人が2割
女性の7割は「親の年金・預貯金」からと予想も、「自身の世帯収入」からを予想する男性が4割 -
【『ダブルケア』に対する備え・支援】
-
【全国初 地域別『ダブルケア』実態調査】
ダブルケアを経験6.5%、ダブルケアが自分事の問題13.5%
ダブルケアが自分事の問題である人の割合 最も高かったのは九州・沖縄、次いで近畿
≪『ダブルケア』 認知度調査≫『ダブルケア』という言葉を聞いたことがある人の割合 経験者では4割
昨年調査と比較 自身のダブルケアの状況に関わらず言葉を聞いたことがある人の割合は上昇
女性のダブルケア経験者が実感した負担 「精神的しんどさ」7割半、「体力的しんどさ」6割半
男性のダブルケア経験者では「経済的負担」や「仕事との両立」の問題が重荷になる傾向
ダブルケアの負担 経験者の実感と未経験者の予想には大きな開き
【ダブルケアについて】
英国ブリストル大学 山下 順子講師 横浜国立大学 相馬 直子准教授コメント
ダブルケアとは、子育てと介護に同時に携わることを指すために私たちが創り出した造語である。晩婚化と出産年齢の高齢化によって、「ダブルケア」に直面する人が増えている。ダブルケアを広義にとらえると、家族や親族等、親密な関係における複数のケア関係とそこにおける複合的課題を考えることができる。
私たちは、ダブルケアが早晩、日本の大きな社会問題・政策課題になると考え、2012年度から日本学術振興会 科学研究費(基盤B)「東アジアにおける介護と育児のダブルケア負担に関するケアレジーム比較分析」(研究課題番号24310192)、「ダブルケア責任の世代間ジェンダー比較分析:自治型・包摂型の地域ケアシステム構想」(研究課題番号16H03326)及び横浜国立大学経済学部アジア経済社会研究センター助成の研究プロジェクト)で、現在まで調査研究を続けてきた。
2015年度からはじまった本調査は、全国の大学生以下の子どもを持つ父母2,100名への、全国初の地域別ダブルケア実態調査である。ダブルケアの費用、経済的負担に関する実態も初めての公表となり、ダブルケア対策を考えるうえで、重要な結果が示されている。
第一に、ダブルケアと仕事の両立実態についてである。ダブルケア経験者のうち4割がダブルケアという言葉を知っている一方で、職場ではダブルケアという問題が認知されていないために、ダブルケアと仕事の両立で苦労した実態が明らかになった。また、子育て・介護・仕事とバランスよく生活したいと考える人は全体の4割ともっとも高いものの、実際には、ダブルケア経験者のうち3割が仕事をやめている。 各地域で、研修会や勉強会など、ダブルケアサポートの取組によってダブルケア問題の認知が広がっている(https://www.facebook.com/wcareyokohama/)。職場においても、ダブルケア問題の認知と、ダブルケア視点からのマネジメント、柔軟な働き方改革がいっそう求められる。
第二に、ダブルケア経験の実態についてである。厚生労働省の調査によれば、「ダブルケアを身近な問題と思う」人は、45.4%と約半数であった(全国40歳以上の男女3,000人が調査対象(平成28年度版厚生労働白書P.203)(http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/16/dl/1-04_04.pdf))本調査ではさらにふみこんで、ダブルケアの経験や数年先に直面する見込かをたずねている。関東や近畿では男性の方がダブルケア経験者の割合が高く、また、九州や沖縄でダブルケア経験者の割合がもっとも高いという興味深い結果が出ている。ダブルケア問題を男女ともに問題として捉えること、そして、地域ごとのダブルケア実態を丁寧に把握し、その対応を考えていくことの必要性がこの調査から示されている。
第三に、親の医療・介護関連の費用負担についてである。前回調査(ダブルケアに関する調査2015) でも、ダブルケアの三大負担として精神・体力・経済的負担が指摘され(http://www.sonylife.co.jp/company/news/27/nr_151222.html)、ダブルケアの経済的コストの実態把握は課題となった。内閣府のダブルケア実態調査(2016)ではダブルケアの経済的コストに関する質問項目は無く、本調査のダブルケアコストのデータは貴重である。
まず、女性と男性での意識にギャップが見られる。男性はその費用負担を、5割は親の年金・預貯金、 もう5割は子ども(うち4割は自身の世帯収入・1割は他の兄弟や親戚の収入)で負担すると回答している。一方で女性の回答を見ると、7割は親の年金・預貯金、3割は子ども(うち2割は自身の世帯の収入、1割は他の兄弟や親戚の収入)と、男性よりも親の年金・預貯金から出すことを考えている。男女間の収入状況や婚姻関係などの影響があらわれているとも思われる。ダブルケア経験者のダブルケア費用は毎月約8.2万円であり、親への費用が高まれば、子どもへの費用が低くなることも推測される。また、ダブルケア経験者の8割弱の人が親の医療・介護関連の費用を一部負担しており、8.7%は全額負担している。ダブルケア世帯にとって、年金とは子ども費用にも直結する問題であり、改めて、高齢世帯への年金・医療・介護保障の重要性が浮き彫りになっている。
最後に、ほとんどのダブルケア当事者が、介護・保育サービスの拡充や入所基準の配慮を切に望んでいる。次いで、介護も育児もあわせて相談できる行政窓口の設置を望んでいる。ダブルケア世帯にとっては、介護支援は子育て支援であり、子育て支援は介護支援である。非営利部門や民間部門からダブルケア支援が拡がり、一部の自治体においてダブルケア視点から介護・保育サービスの入所基準の見直しや行政窓口の設置が進められている。
ダブルケアという言葉が生まれたのが2012年。本調査から改めて、ダブルケア時代の公的セーフティネットの問い直しと、「ダブルケアの社会化」をめぐる議論が、さらに拡がっていくことを期待している。
参考文献:
・厚生労働省編(2016)『平成28年度厚生労働白書』
・株式会社NTTデータ経営研究所(2016)『内閣府委託調査 平成27年度育児と介護のダブルケアの実態に関する調査報告書』
・相馬直子・山下順子(2013)「ダブルケア(子育てと介護の同時進行)から考える新たな家族政策―世代間連帯とジェンダー平等に向けて」『調査季報:地域社会の新しい可能性を拓くーコミュニティ経済という視点から』Vol.171,横浜市政策局政策課,2013年2月(http://www.city.yokohama.lg.jp/seisaku/seisaku/chousa/kihou/171/kihou171-014-017.pdf)
・相馬直子・山下順子(2016)「ダブルケアとは何か」『調査季報:ダブルケアとオープンイノベーション』Vol.178,横浜市政策局政策課,2016年3月(http://www.city.yokohama.lg.jp/seisaku/seisaku/chousa/kihou/178/kihou178-020-025.pdf)
・相馬直子・山下順子(2017)『ダブルケア』ポプラ新書(近刊)
補遺:
この「ダブルケアに関する調査2017」は、これまで実施したダブルケア実態調査の第7弾として位置づけられる。 ・第1弾(横浜市内の地域子育て支援拠点3カ所で質問紙調査) ・第2弾調査(横浜、静岡、京都、香川、福岡で子育てメールマガジン登録者対象に携帯・Web調査)
・第3弾調査(横浜、京都の一時保育、学童、子育て支援センターで質問紙調査)
・第4弾調査(ダブルケア研究HP(http://double-care.com/project/)からのWeb調査)
・第5弾調査(ソニー生命連携調査(ダブルケアに関する調査2015 http://www.sonylife.co.jp/company/news/27/nr_151222.html):全国初の全国規模のWeb調査
・第6弾調査(神奈川ワーカーズコレクティブ連合会(http://www.wco-kanagawa.gr.jp/)・横浜国立大学アジア経済社会研究センター連携調査(http://www.econ.ynu.ac.jp/cessa/))
・第7弾調査(ソニー生命連携調査(ダブルケアに関する調査2017・本レポート))
相馬 直子准教授 プロフィール
横浜国立大学大学院国際社会科学研究院准教授(社会政策学・福祉社会学)。 日韓を中心とした東アジアの家族政策比較研究に従事。Soma N., Yamashita J. and Raymond K.H.Chan(2011)”Comparative framework for care regime analysis in East Asia,”, Journal of Comparative Social Welfare, 27(2)等。
山下 順子講師 プロフィール
英国ブリストル大学 社会学・政治学・国際学学科 講師。博士(社会政策学)。 専門は比較社会政策とジェンダー。主な著作に『労働再審5 ケア・協働・アンペイドワーク:揺らぐ労働の境界』(2011年、仁平典宏と共編、大月書店)、Yamashita, J. Soma N. and Chan R (2013) ‘Re-examining Family-Centred Care Regimes in East Asia’, in Izuhara M. (ed.) Handbook on East Asian Social Policy, Cheltenham: Edward Elgar など。
「ダブルケアに関する調査」の背景 ソニー生命
当社では、お客さまの「子供の教育」「住宅」「家族の夢」「親の介護」などの想いをお聞きし、将来予想される出来事・必要資金などを「見える化」するライフプランニングを通じて、この先の人生においてダブルケアが起こりうる可能性や、直面する前の対策、備えの大切さを考えていただく活動に取り組んでいます。
この活動の一環として、昨年度発表した「ダブルケアに関する調査2015」に引き続き、「ダブルケアに関する調査2017」を行うこととしました。
ダブルケアは肉体的・精神的な負担に加え、経済的な負担も大きくなります。特に経済的な負担はダブルケアに直面した後での対処が難しいこともあります。この調査を通じて多くの方にダブルケアを知っていただくことで、ダブルケア対策促進にお役に立てれば幸いです。
アンケート調査結果
- ダブルケアを経験6.5%、ダブルケアが自分事の問題13.5%
- ダブルケアが自分事の問題である人の割合 最も高かったのは九州・沖縄、次いで近畿
“子育て”と“親(または義親)の介護”が同時期に発生する状況を表す言葉として『ダブルケア』という言葉がありますが、どのくらいの人がダブルケアに直面したことがあるのでしょうか。
全国の大学生以下の子どもを持つ親2,100名(父親1,050名、母親1,050名)に、“ダブルケアとは『子育てと親・義親の介護が同時期に発生する状況』である”と説明をし、自身のダブルケアの状況について聞いたところ、全体では、「ダブルケアを経験した人」(「直面中」と「過去に経験」の合計)は6.5%、「ダブルケアが自分事の問題である人」(「経験」と「数年先に直面」の合計)は13.5%になりました。
地域別に、「ダブルケアを経験した人」の割合をみると、九州・沖縄が最も高く9.7%と約1割になり、また、「ダブルケアが自分事の問題である人」の割合をみると、九州・沖縄が17.0%で最も高く、次いで、近畿が16.0%と僅差で続きました。
男女地域別にみると、関東では、「ダブルケアを経験した人」(男性9.4%、女性4.0%)と「ダブルケアが自分事の問題である人」(男性16.1%、女性10.7%)は男性の方が高くなりました。また、男性では、「ダブルケアが自分事の問題である人」は近畿でも16.6%と1割半となりました。一方、女性では、「ダブルケアを経験した人」と「ダブルケアが自分事の問題である人」は九州・沖縄が他の地域に比べて高く、それぞれ12.7%、22.7%でした。 (図1)
(図1)
- 『ダブルケア』という言葉を聞いたことがある人の割合 経験者では4割
- 昨年調査と比較 自身のダブルケアの状況に関わらず言葉を聞いたことがある人の割合は上昇
全回答者(2,100名)に、『ダブルケア』という言葉を聞いたことがあるか質問したところ、全体では、「ある」12.6%、「ない」87.4%となりました。 『ダブルケア』という言葉を聞いたことがある人の割合を男女別にみると、男性では12.5%、女性では12.8%となり、ほとんど男女差はみられませんでした。また、自身のダブルケアの状況別にみると、経験がある人では39.9%、数年先に直面する人では25.9%、直面していない人では9.5%となりました。 (図2) さらに、男女地域別に、『ダブルケア』という言葉を聞いたことがある人の割合をみると、男性では、関東が16.7%と他の地域の男性より高く、女性では、中国・四国が16.7%と他の地域の女性より高くなりました。 (図3)
(図2)
(図3)
また、母親(1,050名)の回答結果を昨年の調査結果(『ダブルケアに関する調査2015』)と比較(※)をすると、『ダブルケア』という言葉を聞いたことがある人の割合は2015年8.1%→2016年12.8%と4.7ポイント上昇しており、『ダブルケア』という言葉が広まっている様子がうかがえました。 ダブルケアの状況別にみると、経験がある人では2015年20.7%→2016年26.9%(6.2ポイント上昇)、数年先に直面する人では2015年13.9%→2016年21.2%(7.3ポイント上昇)、直面していない人では2015年5.7%→2016年10.9%(5.2ポイント上昇)と、いずれの状況においても昨年よりも上昇していることが明らかになりました。『ダブルケア』という言葉は、自身のダブルケアの状況に関わらず広まっているようです。 (図4)
※昨年の調査は、全国の大学生以下の子どもを持つ母親を対象にした調査のため、母親の回答結果で比較をした ダブルケアに関する調査2015 http://www.sonylife.co.jp/company/news/27/nr_151222.html
(図4)
- ダブルケア未経験者の4人に3人が「親・義親の介護の相談先を知らない」
ダブルケアを経験したことがない人が多いものの、『ダブルケア』という言葉が広まっている様子がうかがえましたが、親・義親の介護が必要になった場合の相談先を知っている人はどのくらいいるのでしょうか。
ダブルケアを経験したことがない1,962名(数年先にダブルケアに直面する147名・ダブルケアに直面していない1815名)に、親・義親に介護が必要になった時の相談先を知っているか聞いたところ、「相談先を知らない」が75.0%、「相談先を知っていると思う」が25.0%となりました。親・義親に介護が必要になった場合、どこに相談をすればいいのかを知らないというダブルケア未経験者が多数のようです。
地域別に「相談先を知らない」という人の割合をみると、北海道・東北は71.2%と全体より若干低くなったものの7割を超え、その他の地域においては、7割半(関東74.6%、北陸・甲信越75.9%、東海76.8%、近畿73.9%、中国・四国77.1%、九州・沖縄75.6%)となりました。親・義親の介護の相談先を知らないという人が多いのは、全国的な傾向のようです。 (図5)
さらに、男女地域別に「相談先を知らない」という人の割合をみると、男性では、近畿(66.2%)が他の地域に比べて低くなり、女性では、北海道・東北(67.6%)が他の地域に比べて低くなりました。 (図6)
(図5)
(図6)
- 女性のダブルケア経験者が実感した負担 「精神的しんどさ」7割半、「体力的しんどさ」6割半
男性のダブルケア経験者では「経済的負担」や「仕事との両立」の問題が重荷になる傾向
- ダブルケアの負担 経験者の実感と未経験者の予想には大きな開き
未経験者の予想では「精神的」より「体力的」、「子育て」「介護」への影響でも異なる結果に
次に、ダブルケアの負担について聞きました。
まず、ダブルケアを経験したことがある人(138名)に、ダブルケアで何が負担に感じるか(感じたか)を聞いたところ、「精神的にしんどい」が最も多く59.4%、次いで、「体力的にしんどい」55.8%、「子どもの世話を十分にできない」51.4%、「親/義理の親の世話を十分にできない」47.8%、「経済的負担」47.1%が続きました。
男女別にみると、女性では、「精神的にしんどい」が73.1%、「体力的にしんどい」が65.7%となり、男性(精神的にしんどい46.5%、体力的にしんどい46.5%)より高くなりました。精神的しんどさや体力的しんどさを感じるのは、特に女性のようです。また、「遠距離の世話」(男性22.5%、女性32.8%)と「兄弟や親戚間での認識のズレ」(男性12.7%、女性26.9%)でも女性のほうが高くなりました。
結婚などで家を出た後に、実家にいる親の介護をしなければいけないというケースは女性のほうが多いのではないでしょうか。一方、男性では、「子どもの世話を十分にできない」が50.7%で最も高くなりました。子育てが十分にできないことに負担を感じた男性が多いようです。また、「経済的負担」(男性49.3%、女性44.8%)や「仕事との両立」(男性28.2%、女性23.9%)において、女性よりやや高くなりました。金銭的な問題や仕事との調整に負担を感じるのは、女性より男性のようです。 (図7)
(図7)
次に、ダブルケア未経験者(1,962名)に、ダブルケアで負担に感じると思うことを聞いたところ、「体力的にしんどい」が最も多く44.9%、次いで、「精神的にしんどい」42.9%、「経済的負担」40.4%、「親/義理の親の世話を十分にできない」29.6%、「子どもの世話を十分にできない」23.2%が続きました。また、「負担は感じない」は29.5%で、男女別にみると、男性37.7%、女性21.4%となりました。ダブルケアで負担は感じないと予想した人は男性に多いようです。 (図8)
さらに、男女地域別にみると、ダブルケアで負担は感じないと予想した男性は、関東では45.6%、東海では43.4%となり、関東と東海の男性が、他の地域の男性に比べて高い結果になりました。 (図9)
ここで、ダブルケア経験者の実感とダブルケア未経験者の予想を比較すると、経験者の実感では、“体力的しんどさ”よりも“精神的しんどさ”を負担に感じた人が多くなっていましたが、未経験者では、“精神的しんどさ”よりも“体力的しんどさ”に負担を感じると予想した人が多くなりました。また、経験者では、“十分に介護ができないこと”よりも“十分に子育てができないこと”に負担を感じた人が多くなっていましたが、未経験者では、“十分に子育てができないこと”よりも“十分に介護ができないこと”に負担を感じると予想した人が多くなりました。さらに、「負担は感じない」についてみると、未経験者では29.5%と約3割になっており、経験者の実感(1.4%)と大きな開きがみられました。このように、経験者の実感と未経験者の予想には違いがあるようです。
(図8)
(図9)
- 有職者の1割半が「介護や育児を理由に仕事をやめたことがある」
女性ダブルケア経験者では4割近く、男性でも2割が「介護や育児を理由に仕事をやめたことがある」と回答
最近では、家族の介護を理由に仕事をやめる「介護離職」が問題になっていますが、介護や育児によって仕事をやめなければいけなかった人は、どのくらいいるのでしょうか。
有職者(1,547名)に、介護や育児を理由に、仕事をやめたことがあるか聞いたところ、全体では「はい」が13.3%、「いいえ」が86.7%となりました。
男女別に仕事をやめたことがある人の割合をみると、男性では6.2%、女性では27.3%になりました。介護や育児を理由に仕事をやめなければいけなかったのは、女性のほうが男性より圧倒的に多いようで、特に、中国・四国の女性では31.4%と3割を超え、北陸・甲信越や東海、九州・沖縄の女性(それぞれ29.6%、28.6%、29.6%)では3割近くになりました。
また、ダブルケアの経験別に仕事をやめたことがある人の割合をみると、ダブルケア経験者では29.8%で、特に、女性経験者では37.8%、男性経験者でも24.6%となりました。一方、未経験者では11.9%で、男性未経験者では4.9%、女性未経験者では26.3%でした。 (図10) (図11)
(図10)
(図11)
- ダブルケアと仕事の両立で苦労した点 「ダブルケアという問題が職場で認知されていない」が3割半
- 未経験者が苦労すると思う点では「介護サービス利用と仕事の両立がしにくい」がトップに
有職者の1割半が介護や育児を理由に仕事をやめた経験を持ち、また、ダブルケア経験者の4人に1人が仕事との両立に負担を感じていましたが、ダブルケアと仕事の両立では、どのような苦労があるのでしょうか。
ダブルケアの経験がある有職者(114名)に、ダブルケアと仕事の両立で苦労したことがある点を聞いたところ、「子育てと介護のダブルケアという問題が認知されていない」34.2%が最も多く、次いで、「職場が両立しにくい環境」28.9%、「介護サービス利用と仕事の両立がしにくい」28.1%が続きました。昨年の調査と比べると、『ダブルケア』という言葉が広まっている様子がうかがえたものの、認知率は1割を超える程度となっており、職場におけるダブルケアという問題の認知の低さが、ダブルケアと仕事の両立を難しくしていると考えるダブルケア経験者が多いようです。 (図12)
(図12)
また、ダブルケアの経験がない有職者(1,433名)に、ダブルケアと仕事の両立で苦労すると思う点を聞いたところ、「介護サービス利用と仕事の両立がしにくい」が最も多く12.6%、僅差で、「職場が両立しにくい環境」11.4%、「親(義親)が介護施設に入れず両立できない」11.1%が続きました。 (図13)
(図13)
- ダブルケアと仕事の両立の理想像 「子育て・介護・仕事のバランスをよく」が4割
- しかし、現実はバランスが上手く取れず、「子育てと仕事が中心」が3割半で最多
ダブルケアと仕事の両立について、有職者は、どのように考えているのでしょうか。
まず、有職者(1,547名)に、ダブルケアと仕事の両立について、何を優先したいか(したかったか)聞いたところ、「子育て・介護・仕事をバランスよく生活したい」が41.6%で最も多く、次いで、「子育てと仕事の両立を優先した生活をしたい」が16.9%、「仕事を最優先した生活をしたい」と「子育てを最優先した生活をしたい」が15.2%で続きました。子育て・介護・仕事の3つのバランスを上手く取りたいと考える人が多いようです。
男女別にみると、「仕事を最優先した生活をしたい」は、男性18.4%、女性8.7%となり、「子育てを最優先した生活をしたい」は、男性13.1%、女性19.4%となりました。仕事を最優先したいと考える男性や子育てを最優先したいと考える女性も少なくないようです。 (図14)
男女地域別にみると、「子育て・介護・仕事をバランスよく生活したい」は、男性では、関東(32.7%)が他のエリアに比べて低く、女性では、北海道・東北(29.9%)が他のエリアに比べて低い傾向がみられました。 (図15)
(図14)
(図15)
ここで、有職者(男性1,031名、女性516名)のダブルケア経験についてみると、男性では、「ダブルケアに直面中」は3.8%、「過去にダブルケアを経験」は2.9%で合計した6.7%がダブルケアを経験しており、女性では、「ダブルケアに直面中」は4.3%、「過去にダブルケアを経験」は4.5%で合計した8.8%がダブルケアを経験していました。 (図16)
では、実際にダブルケアに直面した場合、何が優先されたのでしょうか。ダブルケア経験のある有職者(114名)の回答をみると、「子育てと仕事が中心の生活だ」が33.3%で最も多くなり、「自分なりに子育て・介護・仕事の両立ができている生活だ」(23.7%)を上まわりました。現実的には、子育て・介護・仕事のバランスを上手くとることは難しく、子育てと仕事が中心になり、介護まで十分に手が回らなかった人が多いようです。 (図17)
(図16)
(図17)
- ダブルケアと仕事の両立のために職場に必要なこと 「休暇の取りやすさ」「柔軟な出社時間」
有職者(1,547名)に、ダブルケアと仕事の両立のためには、職場に、どのようなことが必要だと思うか聞いたところ、ダブルケア経験のある有職者(114名)では、「子育て・介護のための休暇を取りやすくする」と「柔軟に出社時間を変えられるようにする」は、ともに52.6%で半数以上が挙げました。休暇のとりやすさや出社時間の変更のしやすさが必要だと実感しているダブルケア経験者は多いようです。
また、数年先に直面するという有職者(102名)では、「ダブルケアに対する経済的支援」(41.2%)や「ダブルケアに関する情報の共有・情報提供」(21.6%)で、ダブルケア経験のある有職者(28.1%、15.8%)より高くなる傾向がみられました。近い将来ダブルケアに直面する人では、経済的支援や情報提供が必要だと思う人が少なくないようです。 (図18)
(図18)
ここで、ダブルケアが自分事の問題という男女(男性131名、女性85名)についてみると、「子育て・介護のための休暇を取りやすくする」(男性48.1%、女性54.1%)や「短時間勤務を認める」(男性28.2%、女性50.6%)は、特に、女性が必要だと考えている様子がうかがえました。他方、「残業を減らす」は男性45.0%、女性32.9%となり、男性のほうが必要だと考えていることがわかりました。 (図19))
(図19)
また、有職者全体について、男女地域別にみると、「残業を減らす」は北海道・東北の男性では34.3%と他の地域の男性より高くなり、「上司や同僚のダブルケアについての理解を深める」でも北海道・東北の男性が27.9%で他の地域の男性より高くなりました。
他方、「柔軟に出社時間を変えられるようにする」や「短時間勤務を認める」といった出社時間や勤務時間の変更が必要だと考える人は、中国・四国や九州・沖縄の女性が他の地域の女性より高く(「柔軟に出社時間を変えられるようにする」中国・四国の女性45.7%、九州・沖縄の女性42.0%、「短時間勤務を認める」中国・四国の女性37.1%、九州・沖縄の女性37.0%)なりました。 (図20)(図21)
(図20)
(図21)
- ダブルケアに関する毎月の負担額 平均負担額は81,848円
- 親の医療・介護関連の費用 全て「親の年金や預貯金」から出している人が2割
続いて、ダブルケアの金銭的負担について質問しました。
まず、ダブルケア経験者(138名)に、ダブルケアに関する毎月の費用を聞いたところ、平均負担額の合計は81,848円となり、内訳は、「親(義理の親)の医療・介護関連費用(介護用品や移動費も含む)」が29,623円、「子どもの保育・教育関連費用(習い事や塾等も含む)」が33,087円、「その他」が19,138円でした。 (図22)
(図22)
次に、ダブルケア経験者(138名)に、親(義親)の医療・介護関連の費用について、【親の年金や預貯金】【自身の世帯の収入】【他の兄弟や親戚の収入等】の分担割合を聞いたところ、【親の年金や預貯金】では、「100%」との回答が21.0%で最も多く、「50~59%」(17.4%)や「80~89%」(15.2%)にも回答が集まり、50%以上は親の年金や預貯金から出ているという人が71.7%になりました。他方、【自身の世帯の収入】では「0~9%」が26.8%で最も多くなったものの、「20~29%」との回答も19.6%と2割みられました。また、【他の兄弟や親戚の収入等】では、「0~9%」が最も多く62.3%でした。 (図23)
(図23)
- 親の医療・介護関連の費用 女性の7割は「親の年金・預貯金」からと予想も、「自身の世帯収入」からを予想する男性が4割
また、ダブルケア未経験者(1,962名)に、親(義親)の医療・介護関連の費用は、どこから出すと思うか聞いたところ、「親の年金や預貯金」は61.0%、「自身の世帯の収入」は31.2%、「他の兄弟や親戚の収入等」は7.8%となりました。
男女別にみると、「親の年金や預貯金」は男性51.6%、女性70.3%と女性のほうが高く、「自身の世帯の収入」は男性39.8%、女性22.7%で男性のほうが高くなりました。女性の多くは、「親の年金や預貯金」から出すことを考えているようですが、「自身の世帯の収入」から出そうと考えている男性は、少なくないようです。 (図24)
さらに、男女地域別にみると、「親の年金や預貯金」から出すことを考えている女性は、北海道・東北では75.5%と4人に3人の割合となり、東海(71.6%)や近畿(70.2%)、九州・沖縄(72.5%)でも7割以上となりました。また、「自身の世帯の収入」から出そうと考えている男性は、関東(41.9%)や北陸・甲信越(42.4%)、東海(42.7%)、九州・沖縄(43.6%)では4割以上でした。 (図25)
(図24)
(図25)
-
やっておいたほうがよかったダブルケアの備え 「親が元気なうちに話し合う」が3割半で最多
男性では「家族の要介護リスクの整理」が最多、女性では「ダブルケア費用の準備」が最多 - ダブルケア未経験者の6割が「ダブルケアの備えを何も行っていない」
ダブルケアに対する備えとして、どのようなことをやっておけばよいのでしょうか。
まず、ダブルケア経験者(138名)に、ダブルケアに対する備えとして、やっておいたほうがよかったことを聞いたところ、「親が元気なうちに介護について話し合う」が最も多く34.8%、次いで、「子育て・介護に関する地域の支援制度を調べる」が31.9%、「親族(両親や兄弟姉妹など)とダブルケアが起こった場合の負担・分担について話し合う」が31.2%で続きました。介護について親・親族と話し合っておけばよかったと感じている経験者や地域の支援制度について調べておけばよかったと感じている経験者が多いようです。
男女別にみると、男性では、「誰がいつ要介護になるリスクがあるのか整理する」が42.3%で最も高く、女性(14.9%)と比べて27.4ポイント高くなりました。誰が・いつ要介護になる可能性があるのかを考えておけばよかったという男性が多いようです。一方、女性では、「子育て・介護に関する経済的な準備をする(貯蓄・保険など)」が40.3%となり、「親が元気なうちに介護について話し合う」と並んで最も高くなりました。ダブルケアに必要な費用を準備しておけばよかったという女性が多いようです。 (図26)
(図26)
一方、ダブルケア未経験者(1,962名)に、ダブルケアに対する備えとして、やっている(やっていた)ことを聞いたところ、「特になし」が60.0%になりました。ダブルケアに対する備えを行っていない人が多いようです。比較的行われていたのは親や親族との話し合いで、「親族(両親や兄弟姉妹など)とダブルケアが起こった場合の負担・分担について話し合う」が14.3%、「親が元気なうちに介護について話し合う」が13.2%でした。
男女別にみると、ダブルケアに対する備えができていないのは、特に、男性より女性のようで、「特になし」は、男性の56.9%に対し、女性では63.1%になりました。 (図27)
(図27)
また、ダブルケアに対する備えとして、やっていることが「ある」人と「ない」人の割合を地域別に算出したところ、やっていることが「ある」人は、北海道・東北(40.3%)、北陸・甲信越(43.8%)、東海(41.2%)、近畿(43.2%)では4割を超えましたが、関東(36.4%)や中国・四国(36.9%)、九州・沖縄(38.0%)では、3割台半ばから後半にとどまりました。 (図28)
(図28)
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ダブルケア世帯に配慮した介護施設入所基準や保育所入所基準
ダブルケアに直面している人ではどちらも9割以上が必要と回答
- 「ダブルケア経験者が、地域で直接相談にのってくれることが必要」 数年先に直面する人の9割弱
最後に、ダブルケアをしている人(ダブルケアラー)への支援策を5つ提示し、必要だと思うかどうかを聞いたところ、必要だと思う人の割合(「必要だ(計)」)は、「介護施設の入所基準にダブルケア加点をするなど、ダブルケア世帯に配慮した介護施設入所基準にする」(直面中98.6%、数年先に直面93.9%)と「介護も育児も合わせて相談できる行政窓口」(直面中93.1%、数年先に直面91.9%)では、ダブルケアに直面している人と数年先に直面するという人のどちらにおいても9割以上になり、「保育園の入所基準にダブルケア加点をするなど、ダブルケア世帯に配慮した保育所入所基準にする」(直面中93.1%、数年先に直面89.1%)では9割前後になりました。ダブルケア世帯に配慮した介護施設入所基準、保育所入所基準や、介護と育児の両方を相談できる行政窓口の必要性は非常に高いようです。
また、「ダブルケア経験者が、地域で直接相談にのってくれる」(直面中86.3%、数年先に直面87.1%)では、ダブルケアに直面している人と数年先に直面するという人のどちらにおいても必要だと思う人の割合は8割台後半になり、「ダブルケア当事者がつながる場を、地域でつくる(例:地域でのおしゃべり会)」(直面中76.7%、数年先に直面81.0%)では7割半から8割になりました。ダブルケアに関連した地域のつながりを必要だと感じている人も多数いることが明らかになりました。 (図29))
(図29)
調査概要
調査タイトル
ダブルケアに関する調査2017
調査対象
ネットエイジアリサーチのモニター会員を母集団とする
全国の大学生以下の子どもを持つ父親・母親
調査期間
2016年10月29日~11月6日
調査方法
インターネット調査
調査地域
全国
有効回答数
2,100サンプル(全国7地域×男女の比率が均等になるように抽出)
調査協力会社
ネットエイジア株式会社
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